不確かな地図
2025年度の旧上庄小レジデンスプログラムには、イケナナと花田智浩の2名のアーティストが参加し、福岡県南部に位置するみやま市を拠点に筑後地域のリサーチと作品制作を3ヵ月間おこないました。その成果として九州芸文館と福岡県立美術館で展覧会を開催し、それぞれの会場で滞在中に制作した作品を展示します。
イケナナは出身地域ではあまり目にすることがなかった「住居の側に植えられた柿の木」が、筑後に多数見られる点に興味を持ち、柿に関するリサーチを開始。地域に植えられた柿の木を観察し複雑に交差する枝葉と、俯瞰したこの地域の風景を重ねました。日本の原風景としての柿の木の姿を通して、イケナナは様々な人々のいとなみに想いを馳せながら、生活をめぐる物語を紡ぎます。
花田智浩は、矢部川についてリサーチを進める過程で、筑後に手すき和紙の技術を伝えた日源上人が、矢部川を見て「故郷・越前の川の流れとよく似ている」と感じたことから、和紙づくりの可能性を見出した成り立ちを知りました。日源とは逆に、花田は流域で製紙される「和紙」を通して「川」そのものを感じる可能性や、イメージの逆流をヒントに制作を試みます。
成果展のタイトル「不確かな地図」は、2名のアーティストの今回のレジデンスにおける制作・リサーチがたどってきた過程を象徴しています。地図は本来、目的地への確かな情報を示すものですが、その目的地までのルートの中には偶然の出会いや寄り道があり、そこから生まれた試行錯誤によって育まれたものが表現の中に息づいています。観光客でも定住者でもなく、わずかな期間の滞在者(レジデント)として今この場所を捉え、知り、表現された作品たちをご覧ください。
アーティスト紹介
イケナナ ikenana
2003 年北九州市生まれ。福岡市を拠点に活動を行う。九州産業大学博士前期課程在学中。食品を限られた時間しか存在できない「刹那的なもの」として捉え、 日常のなかで立ち上がるさまざまな場面を重ねることにより、移ろう記憶や感情と共鳴する絵画表現を追求している。主な展示に2025年個展「佇む輪郭」(ギャラリーネコチクラ/福岡市)、2025年グループ展「Reframing|絵画再考」(ARTDYNE/東京)、2024年個展「phase」(art space tetra/福岡市)。
花田智浩 Tomohiro HANADA
1986 年飯塚市生まれ。筑豊を拠点に活動を行う。ベルリン写真専門学校(Neue Schule für Fotografie Berlin)卒業。意識しないと見えない移り変わる都市風景に対する多様な写真表現を展開している。主な展示に2025年個展「無価値的価値」(寶藏巖國際藝術村/台湾)、2025年2人展「時間の交差」(Art&Garden ねこぜ/大分)。2023年度 福岡アジア美術館 アーティスト・イン・レジデンス(福岡)第3期参加。2025年「第一回THE NEW CREATORS」写真作品グランプリ受賞。

